ふわり、微笑む君に手を伸ばす [小説。]

こんばんは。 

前の小説の続きを続きから。

…題名は正直関係ないです(ぇ





冷たい。
寒い。
独り、は、





走って、走って、走って。
着たままだった、真新しい制服が雨に濡れて。
寒い、冷たい。
桜色が散って、排水溝に流れてく。
気が付いたら、僕は学校まで走ってきていた。
此処なら。
母の、獣のようにぎらついた瞳を思い出して、手が震える。
まだ開いていない門の前で僕は一人、しゃがみ込んだ。


「倉坂?」

聞き覚えのある声がして、がばりと顔を上げる。
差し出された傘の向こうに、担任の教師の姿があった。

「お前、今日も忌引じゃないのか」
「………」
「…まぁ、とりあえず入れ」

がらり、開かれる扉にほう、と安堵の溜め息が出た。
校内は前に見たときとは違って、とても広い。
人が居ない学校は何処か不気味に感じて、なんとなく居心地が悪かった。
すたすたと歩く担任の背中を追いかけて、僕は保健室にやってきた。

「ほら、座れ」
「…はい」

保健室特有のクルクルと回転する椅子を引き出されて、大人しく腰掛ける。
ぼふり、頭に白いタオルをかぶせられて、水の滴る髪を拭って、
ガーゼあったかなぁ、なんていいながら引き出しをあさる教師をぼんやりと眺めた。
がさがさという音と、雨の音だけが聞こえる。
母はどうしているのだろうか。

「お前どうしたんだよ。まだ7時だぞ」
「………」
「いくらなんでも来るの早くないか。傘も差してないし」
「………」
「喧嘩でもしたのか、」

無言で俯いたままの僕を見て、彼は肯定ととったようだった。

「はぁ、喧嘩したのか、」
「……え、」
「何処の奴とだ?まったく、おとなしそうな割に面倒な事するんだな」
「ちが、」
「もういい、教室にもどってろ。タオル貸しててやるから」

ぐいぐいと背中を押され、保健室の外に追い出される。
僕の話など、聞かず。

ぽたりと髪から滴り落ちる水滴を見つめ、僕はきつく唇をかみ締めた。



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